序

2025年3月11日に公表された「特別法人事業税の取扱いに関する改正」について解説する。

当改正は、2024年4月1日を基準日として会計基準等の全般的な見直しを行う「2024年年次改善プロジェクト」の一環としてなされた３つの改正のうちの１つであり、下記の基準及び適用指針に対する改正となる。

・企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」（以下、Tax基準）

・企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」（以下、TEA指針(*1)）

以下、当改正の意味するところ（本質）、それがどのように改正箇所に現れているか（発現）、そして実務にどのような影響をもたらすか（実務）の３段階にて簡潔に解説したい。

Ⅰ.本質

当改正は、具体的な税金ごとにその会計処理を特定するわが国の会計基準において、「特別法人事業税」に関する取決めが記載されていなかったため、事業税（所得割）と同様の取扱いとなることを明確にしたものである。

「特別法人事業税」は、地方税としての法人事業税の一部を国税として徴収し、国が人口を基準として地方に再配分することで税源の偏在を是正する制度であり、事業税を納付するすべての事業者に課されている。

特別法人事業税には「基準法人所得割」と「基準法人収入割」の2つの算定方式があるが、「基準法人収入割」については、送配電事業や保険業等の限定的な業種を対象とするものであることから今回の改正には含まれていない。このため、以下「特別法人事業税」と記載しているものは「特別法人事業税（基準法人所得割）」を意味している。

特別法人事業税は、そもそも事業税所得割の一部だったことから、その算定も、事業税所得割額に一定税率を乗じるシンプルなものとなっている。国税であることから税率に地域差はなく、外形標準課税適用企業の場合、260％と一律である。260％とは大きな数値に感じられるかもしれないが、所得金額×事業税所得割の標準税率1％×特別法人事業税率260％と計算するため、表面税率は所得に対して2.6％となる。

納税者である企業にとって経済的な実態は事業税所得割と同じであることから、事業税所得割と同様の取扱いとすべきこととされた。なお、実務においてもそのような会計処理が広く行われており、今回の改正による影響は限定的と考えられている。

Ⅱ.発現

以下の3点において、特別法人事業税の取扱いが事業税所得割と同じであることを明確にしている。

①　損益に計上すべきこと（*2）

②　損益計算書の税引前当期純利益の次に「法人税、住民税及び事業税」等の科目をもって開示すべきこと（*3）

③　特別法人事業税の税率を税効果会計における「法定実効税率」の算式に含めるべきこと(*4)

Ⅲ.実務

上記①～③の取扱いを従前より実施している企業においては、当改正に伴う何らの対応も生じない。

異なる対応をしていた場合には、改正基準等の適用に伴う影響額を把握し、経過的措置も含めた対応を検討する必要がある。

とりわけ③の法定実効税率の算定に含めていなかった場合には、繰延税金資産・負債の算定基礎を変更することになるため重要な影響が生じる可能性がある。例えば、東京23区内に所在する外形標準課税の適用企業の場合、特別法人事業税の税率を考慮したあるべき法定実効税率は2025年3月末現在30.6％だが、考慮しなかった場合は28.8％となり、1.8％の差異が生じる(*5)。

（なお、この法定実効税率には、2025年3月31日に成立した防衛特別法人税の税率は考慮されていない。詳しくは文末の注釈*10を参照されたい。）

（早期適用について）

当改正は、早期適用への一定のニーズがあると想定されるため、公表直後となる2025年3月期の年度末から適用することを容認している。この場合、年度末からの適用のため、当該期の半期及び四半期の開示は影響を受けない。なお、Tax基準とTEA指針は同時に適用されなければならない(*6)。

（適用初年度の取扱い）

当改正は、2026年3月期の連結会計年度及び事業年度の期首から強制的に適用される。

適用に伴いこれまでの会計処理を変更する場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する(*7)。

なお、適用初年度に容認される経過的な取扱いとして、期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を期首の利益剰余金等に加減し、期首から新たな会計方針を適用することができる。この措置はTax基準及びTEA指針の双方に共通しており、適用する場合には、双方ともに適用されなければならない(*8)。

また、比較情報について、表示の組替えを行わないことも容認されている。すなわち、前期に「法人税、住民税及び事業税」に含めて開示していなかったとしても、それを組替えない対応が可能となる(*9)。

（注釈）